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by cocogoloso

幻のパンチェッタ、タレーゼ・デル・ヴァルダルノ

Tarese del Valdarno

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ヴァルダルノの地鶏探訪から数年、再び舞い戻り小さな町サンジョヴァンニを訪れた。今回の目的はこの地に伝わる特徴的なパンチェッタ(豚バラの塩漬け)、タレーゼ・ヴァルダルノを見るためだ。
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(サンジョバンニ役場)
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こんな店があった!カッフェ・フィオレンツァ(笑)!
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丁度日曜市をやっていた。屋台の間をすり抜けすり抜け、
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訪ねたのはマチェッレリーア・ゴーリ Macelleria Gori。でも「ウチのはもう無くなっちゃったから、カルロの店に行ってごらん」と振られ、近所にあるそのマチェッレリーア・カルロ・ファッブリーニ
Macelleria Carlo Fabbrini
S. Giovanni Valdarno (Ar) - Via Roma, 9
Tel. 055 9122593
に行き先変更。

タレーゼ・ヴァルダルノとは伝統的にこの地に受け継がれた、体重200kgを超える巨大豚の品種。ヴァルダルノではこの豚のバラ肉にロース部分もつけたまま(通常切り離す)塩漬けにしてパンチェッタを仕込む。そのサイズは通常のパンチェッタが長さ15~20cm×幅30~40cm×厚さ3cmなのに対し、長さ80cm×幅50~60cm×厚さ8cmなのだからすごい。しかしそのタレーゼもまた、絶滅の危惧に瀕しており、現在では6軒のマチェッレリーアが生産するのみとなってしまった。そこでスローフード協会がポッロ・デル・ヴァルダルノ同様プレジディオに指定し保護後援活動を展開している、言わば幻のパンチェッタということなのだ。

店主カルロは家業の肉屋を受け継ぐと同時に、このヴァルダルノ伝統のタレーゼの保護・伝承にも熱心に取り組んでいる。
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↑これがタレーゼ。カルロが左手で握っている部位がロース部分(トンカツにする部位)で、そこから左に伸びる縞模様がバラ(ベーコンにする部位)。普通はこの2つの部位は切り離され用途も別々なのだが、タレーゼではこのようにステーキにできるロース部分も塩漬けにする贅沢さ。
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座っているシニョーラはカルロの婆ちゃん。肉を買いにきた客のおばちゃんと延々と井戸端会議中。ボクが「タレーゼの話を聞きに来たんだ」というと、2人して「タレーゼは絶品よ、試食してごらんなさいな」とすすめてくれる。その表情からタレーゼを愛しているのがよく窺える。彼女らの後ろに吊るしているのが熟成中のタレーゼ。塩、コショウ、にんにく、ローズマリー、ジュニパーベリー、粗塩などで隙間なくびっしりと覆い尽くす。そして最低でも3か月、長いものだと1年を超えて熟成させることもあるそうだ。それにしてもこのデカさ、牛バラくらいの大きさがある。

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長期熟成は天井吊るし。店中タレーゼだらけで見事。独特の熟成香が充満している。
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タレーゼの味わいは他のパンチェッタとは全くの別物と言っていい。普通のパンチェッタは料理にも頻繁に使われるが、タレーゼは生ハムと同様にそのままパンと共に食べるもの。熟成が進んだものは水分が飛んで味が凝縮し、アミノ酸の結晶がロース部分にちらほら見える。非常に薫り高く美味しいのだが、ボクがそのまま味見してると、ばあちゃんが「パンはないの?パンは?パンがなきゃダメよ。無いの?買いにいくよ」ってパンと共に食べることを勧める(笑)。それはカルロも同様で、日本人に取ってご飯と一緒に食べてもらいたい、たとえば明太子みたいなノリがある。イタリアではどの地域でもサルーミ(サラミ生ハム類)をよく食べ、そこには地域により多彩なパンが添えられるものだ。焼き立てのクロスティーノ(トースト)に乗せて食べると、熟成した脂肪分がとろけて香り立ち、パンのデンプン質とまったりと絡み合い目茶苦茶ンまい。

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他にもいろいろなサルーミ(生ハム類)を作っているのでオマケ。自家製のフィノッキョーナは、トスカーナ名産のサラミでフィノッキョ(フェンネル)の種子が混ぜ込んであるソフトで美味しいサラミ。ボクの大好物。最近日本のイタリア食材輸入業者がパルマ産の偽物を販売し始めた。味わい全然違うので要注意だ。まったく日本の輸入業者の連中は、イタリアの食事情を知らない奴が多過ぎてけしからん。

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これはピッカンテ。ペペロンチーノ(唐辛子)が混ぜ込まれたちょっと辛いサラミ。ペペロンチーノは辛くする成分カプサイシンが特徴的だが、ボクはあのこうばしい独特の芳香も好き。

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こっちはタルトゥフォ・ビアンコ。白トリュフが混ざってるからたまんなくいい香り。産出量は少ないが、トスカーナでも色々なところで白トリュフが採れる。

パルマの生ハムのように大量安定供給でしかも品質に優れた製品もあるが、それが世界中に輸出されるのは外人である我々には嬉しい反面、食のグローバル化に多少の不安も感じざるを得ない。タレーゼはフィレンツェではほとんど見ることのない希少なサルーミのひとつで、一般に知名度も高くはない。生産量があまりに少ないので当然だろうが、地産地消(その土地の産物はその土地で消費する。作り手と食べ手の距離が近いほど食のリスクは低減する)の考えで言うならこれでいいのかも知れない。このサンジョヴァンニ・ヴァルダルノをわざわざ訪れたものだけが味わえる美味なのだから。
by cocogoloso | 2008-03-12 11:37 | イタリア郷土料理探訪記